2007/01/15

 

 全てのレコーディングが終了しました。後はミックスとマスタリングのみとなりました。
 この日は雑誌取材用の写真を撮りに横浜まで行き、終了後アルコールなしの打ち上げ?をしてレコーディングの労をねぎらいました。
 ほぼ1年がかりのレコーディングでしたが、全員が揃ったのはたぶん2回のみ(両方とも写真撮影用)と言うバンドらしからぬ状況でしたが、OuterLimitsらしいと言えば全くその通りかもしれません。
 今回から杉本君のレコーディング・レポートが始まりますが、長編になるということなのでお楽しみに!
 尚、杉本君のレコーディング・レポートの中でエフェクターを使用せずにダイレクトで録音したとありますが、真空管のヘッドアンプとコンプの名機Ureiの1178を使用して演奏表現を出来るかぎり活かしたナチュラルなコンプで録音していたことを補足しておきます。

レコーディング・レポート/杉本 正(ベース編)

  アウターリミッツでレコーディングするのは、果たして何年ぶりだろうか。いや何十年ぶりかもしれない。ペール・ブルーやミスティー・ムーン、マリオネット・ラメントなどリテイクする前の、自主制作のレコーディングの時以来だから、もう20年以上前だと思う。
 当時はほとんどスタジオライブのようなレコーディングだったから、今回のレコーディングとは全くかけ離れたものなので、何十年ぶりというのも実際はナンセンスとも言える。昔は「せーの」で録っているので、隣のブースでは桜井が実際にたたいているわけだから、それを見ながらベースもノリノリになる。昔の録音を聞くと、こんなプレーはドンカマを聞きながら、一人ブースで演奏しても出るかなと思ってしまう。もちろん今回はプロ・トゥールスを使った最先端の録音だから、昔に比べて自由自在なところもあるだろうが、本来の生きた感じがどこまで出るのかが課題でもあった。
 最近ではオーケストラでもプロ・トゥールスを使用したレコーディングになっているので、全体を録った後で部分録りをしたりして、以前の録音時間に比べてずいぶんと短縮されている。以前は誰かが音をはずしたりすると、最初からとりなおしだったりしたので、ずいぶんと緊張を強いられたものだ。
 話が脱線するが、仕事でレコーディングとなると、良いものを録るということも大切だが、なるべく早く終わることが全員の最優先目標になるので、そういう意味でミスは厳禁だ。ミスをした場合は、「すいませ〜ん。」と自己申告するが、ミスの程度が微妙な場合は、とりあえず内緒にしておいて、幸運にもOKが出ると、そのままやり過ごすというようなことをやっている。早く終わることが至上課題なので、こういう呆れたことになる。
 こんな悪い習慣が付いているものだから、いざ自分のバンドのレコーディングとなると、まず真剣になるという事から始めなければならない。自分で不本意な演奏をしないようにと、自分に言い聞かせなければならない。「いまの、OKでいいんじゃない?。」といわれても、「いや、もう一度。」みたいな前向きな姿勢になれるよう努力しようと、レコーディングに臨んだ。
 しかし、実際に始まってみると、「OK」なんてなかなか出ない。当初、一日に2〜3曲ペースで録っていって、3〜4日で終わる心づもりだったけれど、最後まで一日一曲のペースだった。結局、スタジオに通ったのは私が一番多かったらしい。まあこれは、ベースだけではなく、ヴォーカルやチェロなどもあったから仕方がないのだけど。
 アウターリミッツの曲がいくら長いとはいっても、平均すれば10分程度なのに、これにベースだけで一日かかっているというのは、実に丁寧というか細かいというか、終わる頃には毎回ボロボロになっていた。始まった当初は、レコーディングというのは、ミュージシャンの人格を一度粉々に破壊してから始まるものなのかと思った。
 何度かライブで演奏していた曲もあったが、今回のレコーディングのために、全てのベースラインを再構築した。新曲に関しても至る所に新しいアイデアを盛り込んだベースラインとなっている。これには作曲者である塚本は当然としても、レコーディングに応援に来てくれた川口や荒牧、桜井の助言に負うところが多い。どうしても自分の殻から抜け出せないで追い詰まっている時に、メンバーが斬新なアイデアを出してくれる時ほどありがたいことはない。何度助けられたことか。自分らしくないようなフレーズもあるが、何とか短時間に自分のものにして録音にこぎつけた。
 何で1曲にベースだけで一日かかるのかと思うだろうが、1曲1曲こんな事をしていたら、あっというまに時が経ってしまうものだ。
 週一くらいのペースでレコーディングしたので、結局、ベースだけで3ヶ月かかった。レコーディングの全体の遅れに大きく貢献している。早く聴きたいと思っているファンには大変申し訳ないことをしたと思っているが、よい作品に仕上がっていると思うので、ご勘弁願いたい。
 レコーディング・レポートらしく、レコーディング・データを記すことにする。
 まず、エフェクターだが、今回のレコーディングでは、入力の段階では一切使用していない。ダイレクトで録音して、コンプ、ディストーションなどは必要に応じて後がけしている。だからここでは特に記すことがない。
 使用楽器についてだが、今回メインで使用したのは、米国産Ken SmithのBT6TNV-CUSTOMである。一番最近のライブで使用しているので、ご存じの方も多いと思うが、チック・コリア エレクトリックバンドでジョン・パティトゥッチが使用していたモデルとほぼ同じものである。当時のスミスのベースは、全てカスタムメイドだったので同じものが二つとない。私のベースも使用している木材や基本的な造りはパティトゥッチのものと全く同じだが、ポッドの位置などの電気系統が多少違っている。
 この楽器は私が最後に行き着いた楽器だが、最初は知人のフォデラがとてもいい感じだったので、フォデラのアンソニー・ジャクソンモデルを探していた時に、この楽器が突如目の前に現れた。スミス氏がフォデラの師匠でもあり、自身が優れたコントラバス奏者でもあったことが、何か私を引き寄せるものがあったのかも知れない。電気楽器とは思えないウォームなサウンドでありながら、輪郭がしっかりしている。しかも6弦であるために超低音域から高音域まで一体感のあるバランスのいい音色は、いまだに他の楽器では出会ったことがない、私が出会った最高のベースである。
 レコーディングも佳境になってくると、何か新しい音が欲しくなってくるもので、スミス以外に1曲ずつ別の楽器を3つ使った。
 一つは、最後の「Constellation」という曲で使用した、英国産STATUS GRAPHITEのSERIES-2の8弦モデルである。今回のレコーディングでは8弦は必要なかったので、オクターブ弦をはずして通常の4弦として使用した。ヘッドからブリッジまでのスルーグラファイトネックの今時のベースなので、適度のドンシャリ感はあるが、ウォルナットボディーと非常にコントローラブルなアクティヴサーキットが、柔らかい音色を引き出している。歌もののバックとしていいアクセントになったと思う。
 もう一つは、「Lunatic Game」という曲で使用した仏国産VigierのArpege III SeriesのDelta Metal Fretlessベースである。このベースも前々回のライブで使用したので見覚えがあるかも知れない、金属指板が特徴のフレットレスベースである。フレットレスベースというと、ぼんやりした音の立ち上がりが味となっているが、これは金属指板という画期的な仕様のために、非常にレスポンスがよい。その上にフレットレスの表現力を備えているので、弾いていて楽しくなるベースである。トーンコントロールも従来のポッドによるコントロールに加えて、ROMに12のプリセットがあるため、瞬時に音色を劇的に変化させることが可能になっている。一台で何台分もの役目を果たすことのできる、マルチベースである。私は仕事でフレットのないコントラバスを弾いていて、いつも音程のコントロールに神経をすり減らしているので、実はあまりバンドでは進んでフレットレスは弾きたいと思わない。しかし今回は1曲入れてみたが、思いのほかいい感じだったので、またバンドでも弾いてみようかと思った。でもフレットレスを弾くと、耳のいい川口が嫌がるから、やっぱりやめておこう。
 最後に登場したのが、ご存じチャップマンスティックである。「Pangea」という曲で使用した。スティックは本来ソロのために考案された楽器だ。トニー・レビンがバンドで使用したことから、ベーシストが持ち替えることが多いが、アプローチとしてはギター、キーボードなどからのほうが、取っつきがいいような気がする。5度チューニングと4度チューニングの弦がリバースで並んでいるという世にも奇妙な楽器だが、バンドで使用する場合はギターパートとベースパートが一人で出来るというメリットがあまり生かされない。ギターとベースが一人ずついればすむからである。それでもあえて使うだけの意義を出すためには、右手の左手のコンビネーションでスティック独特のフレーズを作ると、一人でしかできないスティックならではの世界を醸し出すことが出来る。ディシプリンでのエレファント・トークが最たる例である。「Pangea」ではスティックを使用していることが明らかにわかるように、スティックだけの短いイントロを付けた。またリズムの導入もスティックのコンビネーションフレーズから始まる。曲が始まってしまうとスティックなのか普通のベースなのか、容易には判別出来ないが、2カ所ほどスティックのフレーズが浮き出るような箇所を設けたので、そこでは是非「ニャ」っとして欲しい。
 私は10弦のスティックと12弦のグランド・スティックを所有しているが、今回使用したのは12弦のグランド・スティックである。グランド・スティックはネックが太くなるので10弦のスティックよりは弾きにくいが、音域が広くなるので、フレーズに制限を感じないからストレスがない。マテリアルはメイプルなので、トニー・レビンの楽器に比べても際だって明るい澄んだトーンが特徴である。
 演奏が困難な楽器であるにもかかわらず、普段あまりスティックを弾かないので、もしライブでこの曲をやることになると、レコーディングの時同様の地獄の練習をしなければならないから、いまからとても気が重い。
 以上が、レコーディング・レポート ベース編であるが、このアルバムでは他にもヴォーカル、チェロ、コントラバスをレコーディングした。これは回を改めて書くことにする。私に書かせると、このように際限なく長くなり、しかも連載ものになってしまうから、気をつけた方がいい・・・・と思う。